「『勇者たちの中学受験』感想。受験の着地点」

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「勇者たちの中学受験」表紙
「勇者たちの中学受験」おおたとしまさ・著 大和書房

 受験関連のブログを書いてらっしゃる方が皆さん感想を書いておられるので、僕も読んでみました。

「やはりお金持ちですね(笑)」

 僕は貧乏お父さんなので読んでまず最初に思いましたが、登場する3家族ともお金持ちですよね。

 3家族目のコズエちゃん家族は、お母さんもパートをしていて車もワーゲンで庶民風に描かれています。でも第一志望の香蘭のすぐ近くに住んでいます。香蘭は旗の台にあります。東急線沿線のリッチエリアです。当然我が家は住めません。

 3家族ともサラリーマン家庭ですが、お父さんは大企業勤務です。中小企業勤務の僕とは大違いです。そしてみんな兄弟がいます。さらに最初の2つのお話は、お母さんが専業主婦だと思われます。やはり一般的に私立を受験されるご家庭はお父さんが高収入のようです。

 ですが今は僕のように中小企業勤務で、子どもの将来のために夫婦共働きで、節約してなんとか受験費用を捻出しようというご家族がたくさんいらっしゃると思います。

 だから読者の中には、僕のように

「なんだ皆うちよりお金あるじゃん!」

と思った方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 次はそういう本当の庶民家庭の中学受験のお話を読んでみたいです。

 オオタトシマサさん、ぜひお願いします!

 

「小学校受験にも通じると思いました」

 「勇者たちの中学受験」には3つの家族の受験エピソードが綴られています。中学受験がテーマになっていますが小学校受験にも通じます。

 物語に描かれている3家族は受験生としては成功者だと思います。ですがやはり親の「着地点」の捉え方一つで、受験が失敗なのか成功なのかが変わるのですね。 

 オオタトシマサさんは、受験は親の心の中の魔物との戦いだと表現されています。まさにそれだと思います。魔物はたくさんいます。見栄、対抗心、リベンジ感情、優越感……。

 1話目「アユタ」のお父さん大希の中の魔物は、栄光学園に息子を通わせているテニス友達への対抗意識でしょうか。だから自分も同じ神奈川御三家に入れたかったけど、現実のアユタのSAPIX偏差値40を前にして、下げたつもりの志望校が慶応中等部。頭がおかしいんじゃないかと思うでしょうが、でもこれ普通なようです。

 妻の仕事は個別指導なので、集団塾のフォローとして入会してくるお客様が多いのですが、多くのお父様が

「第一志望は桜蔭です!」

などと自信満々に仰るそうです。4年生の段階で、我が子がSAPIX偏差値で40だとしても、1年頑張れば偏差値が20上がると思っていらっしゃるようです。そして半年後には

「第一志望は女子学院にしました」

と普通に言うようです。持ち偏差値に近い志望校を見られるようになるのは6年生になってからなのだそうです。

 大希もそうだったのでしょう。最終的に志望校を下げても、御三家の浅野にはこだわり続けていました。

 

 ですが、偏差値は努力の対価ではありません。5年生になってから上がることは非常に難しいそうです。

「勝手にライバル」

 親が受験校を考えるにあたっては、だいたい張り合いたい相手がいるようです。親戚の子が雙葉に行ってるとか、幼稚園で一緒だった子が慶応に行ってるとか。同僚の子が開成とか。決まって相手の通っている学校は偏差値上位校です。当然ですよね。

 我が家の場合は会社にも親戚にも私立小学校に通っている家庭はありません。張り合いたい相手はいませんでした。妻の生徒さんは立派な学校に通っている子ばかりですが、それは家柄が違いすぎて張り合う相手ではありません。張り合われても困ります。相手は社長だし……。

 大希さんは進学校の先に我が子の東大合格を夢見ていたのでしょうかね?だから中央では不満なのかもしれません。中央なんて僕からすれば羨ましい限りです。高3の頃の僕には雲の上の大学でした。

 仮に本命のサレジオに合格しても、大学受験で中央に合格する保証はないですしね。部活も目一杯楽しめて、彼女も作れる大学附属の方がアユタは楽しいに決まっています。親も子どもも共に満足することは意外と難しいのでしょうね。

「見栄と優越感」

 僕も妻も今通っている学校にとても満足しています。

 ですが妻は時々

「〇〇(第一志望の学校)に行かせたかったな」

とこぼすことがあります。第一志望の学校に通っていれば、職場でも自信を持って言えるという気持ちがあるのかもしれません。

 妻は小学校受験が終わって、一度はリベンジで中学受験も考えました。でもその道が大変なことは妻自身が1番分かっています。だから早々に撤退しました。

 小学校受験の当時は、僕も妻も仕事を制限していました。妻は元々制限しやすいですし、僕も子どもが幼いことで職場の理解を得やすかったです。

 小学校受験で終わらせられたことと、通っている学校が共働きをしやすい環境であることで、今は思い通りに働けます。

 リベンジすることを決めたら、また6年間受験勉強です。また仕事を制限して塾への送り迎えです。今僕は30代後半で妻は40代です。仕事を制限してしまったら、娘の中学受験が終わった後でまともに仕事に戻れません。それで今の学校より偏差値の高い学校へ行ける保証は1つもありません。

 リベンジや見栄に取り憑かれると、きっと周りが見えなくなって、子どもを追い詰めてしまうのでしょうね。

 僕も仕事を休んだり早く帰ったりする手前、職場に小学校受験をすることは伝えていました。だから全滅することはやはり恐怖でした。

 ましてや2話目のハヤトくんは優秀ですから、両親が魔物に取り憑かれてしまう気持ちは分かります。

 特に我が子と他の子を見比べて優越感に浸る気持ちはよく分かります。

 僕も年少・年中の頃、ジャックの体操で立ちんぼになって泣き出したり、親のところへ帰る子を見て、見下して優越感に浸っていましたから。

「着地点」

 この作品を読んで、ますます親が着地点を見つけ出すことの大切さを感じています。ジャックの学校別の先生が仰っていた

ご縁を頂いた学校は、そのご家庭が一番楽しく通える学校と神様が縁を結んで下さった

という言葉が、受験全般に通じる真実なのだと思います。

 オオタさんも解説で書いてらっしゃいますが、志望校に順位を付けないことは、結果を成功と捉える為に大事なことです。

 第一志望に合格するのは大変です。通って満足できそうな学校を複数見つけて、どこに行っても成功という気持ちで受験に取り組めれば良いのではないでしょうか。そうすれば全滅以外は全部成功です。

 特に小学校受験には偏差値がありません。学校の順位なんて親が勝手に決めているだけです。自分の滑り止めは誰かの第一志望かもしれません。

 中学受験だと子どもが偏差値を分かってしまっているので難しいかもしれませんが、小学校受験はコントロールしやすいので、その利点は活かしたほうが良さそうです。

 幼稚舎以外は価値がないとか、この学校は滑り止めだから合格しても行きたくないと言う幼稚園児はいません。いるとしたら親がそれを子どもの前で言っているからです。

 我が家の娘たちには志望校の順位は伝えてません。だから娘たちは自分たちが第一志望の1番良い学校に合格したのだと思い込んでいます。

「差がついてしまうこと」

 それにしても、兄弟がいるご家庭の受験は大変ですね。

 僕は「双子で大変だね」とよく言われますが、双子は同じことを2倍やれば良いだけです。年の差のある兄弟のように受験を2回することはありません。仕事を制限する期間も短くて済みます。

 上の子と下の子で受験の結果に差ができるのは当たり前です。中学受験なら尚更です。コズエちゃんのお姉さんのアズサちゃんも、妹の香蘭の合格発表は見たくないと言って見ませんでした。姉妹二人がまったく同じように受験に取り組んで、結果として違う学校に行くことになったのなら良かったのでしょうね。

 3話目は確かにコズエだけ見れば大成功に思えます。

 ですが明らかにアズサよりコズエは良い待遇で受験に臨んでいます。それはアズサの失敗があったからこそです。

 でも、それで結果的に妹の方が偏差値の高い学校に合格して、お姉さんの心は今後どうなるでしょうね?

 姉は進学校、妹は附属校というように全くジャンルの違う学校だったら良かったかもしれません。

 我が家も中学受験をするなら、この問題をどう処理すれば良いか本当に悩みます。

 双子が同じ偏差値ということはありえません。明らかに差がある結果が出て、それが原因で娘たちがお互いにわだかまりを持つことは十分考えられます。

 中学受験が終わってからの不登校は実際たくさんあるそうです。深海魚になってしまうかもしれません。

「家族の幸せとは」

 僕のブログは「家族が幸せになれる着地点を見つける」ことがテーマです。

 他のブログと違って小学校受験の情報や家庭学習の仕方を紹介するような記事は全く書いていません。だから、情報が欲しくて僕のブログに来てくださった方はがっかりされるかもしれません。

 ですが、数年前に受験が終わっている我が家の化石のような情報や勉強法なんか書いても価値がないと思います。

 それよりもせっかく小学校受験に取り組んでいるご家庭が途中で諦めてしまわないように、中学受験の大変さや小学校受験の魅力を書いたり、ど庶民の我が家と比べて「こんなお父さんが乗り越えたんだから」と思って頂けるような話を書いたりしたほうが価値のあるブログになると考えて日々文章を書いています。

 家族の幸せは、偏差値の高い学校に合格することでしょうか?

 家族の幸せは、頑張って合格を勝ち取った学校に子どもが楽しく通うことですよね。妻の話を聞いていて、楽しく通える学校は偏差値順ではないとしみじみと思います。

 親が行かせたい学校が子どもにとっての1番とは限りません。

 受験は魔物との戦いだとしたら、目の前の子どもの現実を冷静に見て、子どもの未来を冷静に想像することが魔物に勝つ方法なのかもしれません。その時に良い未来だけではなく、悪い未来も想像して、どちらがましかと考えることが大事なのだと思います。

 1番取り憑かれやすい魔物は「高望み」なのかもしれませんね。


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