「怒らない」分かっていてもできなかったこと

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お習字する女の子

 小学校受験の家庭学習の基本は、親が子を怒らないことです。

 先生方は毎回のように、怒ったら駄目だと面白おかしくご指導して下さいます。

 だから当然分かってるんです。分かっているのにできないのです。

 僕は短気なので散々怒りました。ペーパーの出来が悪かった、悪さをした、怒る理由なんていくらでもあります。

「小学校受験の名残り」

 我が家は賃貸ですが、壁は落書きだらけです。壁紙もあちこちむしってあります。

小学校受験の名残りです。

 賃貸ですから、当時僕はものすごく怒りました。何度怒られても落書きは止まりませんでした。見つからないように下の方に描いたり、小さな家具を自分たちで動かして、その裏に描いたりしていました。

なぜそんなに壁に描きたいの?

 今振り返ると、やっぱりストレスだったのかと思います。隠れて食べたお菓子のゴミが、納戸や家具の裏から大量に見つかることもしょっちゅうでした。

 今の家に引っ越して来たのは新年長になってすぐの頃です。

 講師をしている妻の仕事は夕方からです。僕の仕事は朝早いので、夕方には帰宅できます。本当はきっちりバトンタッチしたいところですが、どうしても娘たちだけになってしまう時間ができます。

 そのため娘たちだけでよく留守番をさせていました。それまで住んでいたボロアパートとは違って戸締まりもちゃんとできましたし、双子ですから安心していました

 

 日中は妻がペーパーを見ました。夕方からは僕が見ます。親と一緒にいる時間はずっと勉強でした。二人だけの留守番は楽しい自由時間だったのでしょう。

 年長の時期には毎日最低でも妻と1時間、僕と1時間は学習の時間を作ってました。

 学校別授業が始まり、娘たちが他の子より劣っていると思っていた2月から5月にかけては、むきになってペーパーばかりやらせていました。特に図形が出来なかったので延々と繰り返しました。

 僕も妻も相当焦っていましたから、出来ないとかなり怒りました。お母さんから怒られ、お父さんからも怒られ、娘たちは相当疲れていただろうと思います。

 子どもは怒られると脳が思考を停止するそうですが、本当に限界まで追い詰めると突然寝はじめます。

「ペーパーをやらせすぎて」

 ある日、娘たちが二人とも吐きました。その日は幼稚園が休みで、朝妻がペーパーの前に家の外にフープを並べて指示行動の練習をしていました。

 突然上の子の動きが鈍くなり、しゃがみこんで玄関先で吐きました。妻は慌てて上の子を寝かせたのですが、お昼すぎまで何度か嘔吐を繰り返しました。

 すると今度は下の子も同じように突然うずくまって吐いてしまいました。

 前日は二人ともふざけてペーパーを真面目にやらなかったので妻が激怒し、能面のような顔で夜寝るまでペーパーをやらせていました。

 妻はその日はペーパーを一切やめて絵本を読んだり、アイスを食べさせたりしたそうです。娘たちは夕方僕が帰る頃には元気になっていました。

 風邪や胃腸の不調は思い当たりません。ペーパーをやらせ過ぎたことのストレスが娘の限界を超えてしまったことが原因なのだと思います。

 二人が吐いたことで僕も妻も目が覚めて、鬼のようにペーパーをやらせることはやめました。

 小学校受験のペーパーは小学3年生程度の問題だと一般的に言われています。普通ならできなくて当然です。娘たちは12月生まれなのでただでさえ発育が追いついていないのですから、出来ないなら潔く諦めて違うことをしたほうが正解でした。

 でも、焦っていると出来るまでやらせてしまいます。結果的にしばらく期間をあければ脳の発育が追いついて簡単に出来るようになるのですが、初めてのことだと分かりません。今日できるようにならないと追いつけないと考えてしまいました。

 嘔吐事件以降、ペーパーに掛ける時間はずいぶん減らしましたが、やることは他にもたくさんあります。絵、音読、歌、縄跳び、読み聞かせ、面接の練習。それを全部毎日欠かさず取り組んでいました。双子ですから時間が倍掛かります。年長の頃は毎日寝るのが22時以降になってしまっていました。

 

「双子だったことに感謝します」

 我が家は双子で本当に良かったと思います。二人でいたから僕達に怒られても、たくましく乗り越えてくれました。怒られて落ち込んでも、二人で遊んでいるうちになんとなく解消してくれました。片方が怒られると、もう片方が頑張ってフォローしてくれました。当時もペーパーが嫌いだった下の子は、上の子と同じ小学校に行きたい一心で頑張っていました。

 壁の落書きを見ると、当時のことを思い出して申し訳ない気持ちになります。先生が仰られた通り、僕達が怒らずにペーパーに取り組んでいれば、年中勉強をやめずにその段階から都会の教室に移動していたら、僕達が好きじゃないパズルなどの遊びを、幼いうちにもっとやっていたら……。

 家の壁も綺麗なままで受験の結果も違っていたかもしれません。下の子は今も勉強が嫌いです。

 今では娘たちはだいぶ強くなって、僕がいくら叱っても効果なしです。無視するか、二人で

「お父さんは怖いねぇ」

などと言って平気な顔をして笑っています。双子の小学生女子は最強です。

 ですが、年長の9月頃からは2人揃ってチック症になってました。秋季講習でお世話になった教室の先生は優しかったので、気にしなくて大丈夫だと仰って下さいましたが、そもそも怒りすぎなければならなかったと思います。因みに学校別クラスの先生はチック症になるは駄目だと仰ってました。

「小学校受験で良かった」

 受験が終わってから、ピアノ、お習字、算盤、水泳を習っています。水泳は0歳から続けていて、受験中も休みませんでした。中学受験目的ではない英語と算数の個別指導にも通っています。今のところ、娘たちはどの教室も好きです。

 何にでも意欲的に楽しく取り組めて、どの先生のことも好きです。それは小学校受験の恩恵だと思っています。

 ご縁をいただけた学校も娘たちに合っていて楽しく通えているから、心が健康に育っているのだと思います。 

 小学校受験は子どもが幼い分、与えてしまったストレスが成長に与える影響が少なくすんだのかもしれません。

 二人が吐いたことで、何がなんでも中学受験は避けなければならないという気持ちが固まりました。妻の仕事柄、中学受験の場合妥協できなくなります。どれだけ追い詰めてしまうか、想像すると恐ろしくなりました。

 特に上の子はお母さんのことが大好きなので、褒められるために相当無理してしまうでしょう。妻もプロとしてプライドがあります。二人で鉢巻きして、水泳もピアノも全辞めで

「目指せ御三家!」

になることは目に見えてます。娘はきっと、お母さんから褒められるために、カンニング、過食、拒食、抜毛……。

 楽しく小学校に通って、習い事をして、呑気に過ごす方が我が家には合っています。

 娘たちにとって家でたくさん勉強をして、親にたくさん怒られたのは嫌な記憶のようです。でも、家族みんなでジャックに通ったことは楽しかった思い出として残っているようです。今でも時々話しています。

 それにしても、むきになってペーパーをやろうとして用意したコピーの裏紙が、未だに使いきれません。どれだけやらせようとしていたんでしょうね。

 今回はこの辺で。読んでくださってありがとうございました。