価値のある受験?庶民の場合

この記事を読むのに必要な時間は約 10 分です。

 最近娘たちと「北の国から」を観ています。TVドラマ枠の最終話に、母さんのお葬式のために東京に帰った純が、以前の担任の先生と再会するシーンがあります。

 先生は純に

「みんなもう中学受験だから、たくさん勉強をしているぞ。純もぼやぼやしていると置いていかれるぞ」

と話します。

 「北の国から」の最終話が放送されたのは1982年です。純はドラマの中で小学5年生です。今から40年前には、すでに東京では中学受験が当たり前になっていて、しないと置いていかれるという意識があったのですね。時代は更に遡りますが、倉本聰自身が中学受験をして麻布から東大です。

価値のある受験?

「北の国から」は何度も観ていますが

 「北の国から」は何度も観ていますが、独身の当時観ていたときは当然何とも思いませんでした。そんな台詞があったことも忘れていました。娘の小学校受験をして、中学受験の仕事をしている妻が近くにいると感じることが違います。

 当時小学5年生だった吉岡秀隆が今52歳です。1980年代に中学受験をした子たちが、まさに今子どもの小学校受験や中学校受験にリアルに取り組んでいらっしゃる世代でしょう。

 中学受験や小学校受験が昨今加熱する理由がよく分かります。ご自身は中学受験をしていなくても、当時中学受験をして良い大学に進んで現在立派な地位を築いている友人がいらっしゃるでしょうから「我が子は中学受験」と考えるでしょう。ご自身が中学受験をしていれば、「我が子はもっと早く小学校から」と考えるのが親心です。

間もなく新学期が始まります

 間もなく新学期が始まります。今まで「新6年」「新年長」だったのが本当に「6年生」「年長」になって、いよいよ本格的に受験の学年になる自覚が高まる時期だと思います。

 妻のお客様にも今年度受験のご家庭があります。やはり受験学年になると雰囲気が変わるようです。お母様もピリピリとし出すし、子どもにも自覚が生まれます。

「今年一年は仕事を制限して子どもの中学受験に取り組む」

と言っておられるお母様もいらっしゃいます。

 妻のお客様は超富裕層なので、我が家のような庶民の家庭とは事情が違います。そもそもお母様は専業主婦のご家庭が多いですし、共働きの場合でもお母さんが数年仕事を休んだところで経済的に問題ないようなご家庭ばかりです。

 養成所時代に僕を可愛がってくださった文学座の加藤新吉先生が

「何かを成したければ楽学しなさい」

と仰っていたことを最近になって思いだしました。

「衣食足りて礼節を知る」という言葉がありますが、確かに妻のお客様を見ても経済的に潤沢なご家庭がやはり受験でも良い結果を残します。

「北の国から」の作者である倉本聰も立派なご家庭の出身です。

 麻布高校に在学中から劇団仲間の文芸部に入り浸っていたため大学受験をしていませんでしたが、親から「大学くらい行け」と言われて東大に入っています。

 最近話題の芦田愛菜だってお祖父様は商船三井の会長ですし、お父様は三井住友銀行の偉い人です。

 芸能人や小説家は元々上流階級の出身者が多いです。だからプロフィールを見ると多くの方が名のある私立の小学校の出身です。

 太宰治だって青森の豪族だし宮沢賢治だって花巻の豪族ですから、小説家というものも元々そういった立派な家柄の子どもがなり得る職業なのかもしれません。

 演劇だって同じです。青山の初等部は芸能人や歌舞伎家系の御用達です。

 劇団四季の浅利慶太も江戸時代から続く製薬会社の経営者の家系で、お父さんは築地小劇場の設立に携わっています。役者になろうとしていた自分が馬鹿みたいです。

 でも目指している間は「出自なんて関係ない」と思い込みたいものです。今になって思うと、実は立派な家の人が成功し得ることを分かっていたから、そのリベンジで僕は娘たちの小学校受験を頑張ったのかもしれません。

 清原の子どもは幼稚舎から慶應で、今年の選抜甲子園に出てますね。妻も亜希さんは素敵だと言っています。

 立派なご家庭の子が良い学校に通っていたり、親と同じ分野のプロになったりすると、コネだとか七光りだとか言いたくなります。でもそうではなく、それだけ教育に手もお金も掛けられているから、実際に他の人より優れているのではないでしょうか?

 きっと庶民の僕達が想像もつかないような手とお金の掛け方をして、親も本人も努力していると思います。

本来私立は

 本来私立の小学校や中学校はそういう立派なご家庭のための物だったのが、昨今一般庶民も目指すようになったために受験が加熱しているのでしょう。

 大学入試は実力なんてのも半分は嘘なのだと思います。政治家の子はほとんど東大か慶應ですよね。小学校や中学校の私立は上流階級の人のためのものなのに、大学だけは一般に広く門戸が開けられていると考えることが間違いの素のように感じます。

 庶民は小学校でも中学校でも大学でも、数少ない「庶民枠」を争わなければならないのです。

 だから我が家のような庶民の家庭が私立を目指すには、その辺の事情をわきまえることが大事です。「MARCH未満の附属には行く意味がない」などと言っていては悲しくなるだけです。

 我が家は医師でもなければ経営者でもありません。一流企業にも務めていません。だから「よく私立にもぐりこめた」と思っています。

 近年は我が家とそんなに変わらないようなご家庭も小学校受験を目指しているでしょうし、我が家のようになんとか遣り繰りして通っていらっしゃるご家庭もあるでしょう。

 僕のブログに興味を持ってくださる方は、少なからず「自分は庶民だ」と思っていらっしゃる方なのだと思います。僕から見たらずっと立派なご家庭だって「自分たちは庶民だ」と仰るでしょう。自分は上流階級だと言う人の方が少ないですから。

 そういう庶民家庭が数少ない庶民枠を獲得するには、学校から「通ってほしい」と思われるような家庭を目指さなければならないのではないでしょうか。「〇〇以下なら価値がない」という上から目線を持っていると上手く行かないように思います。

 それは受験生の中で突出した高得点をとることかもしれません。親の教育方針と学校の方針の合致度合いが高いことかもしれません。芸能人や政治家やプロのスポーツ選手や芸術家の家庭が恐らく持っているであろう「家庭点」を埋める何かが必要なのだと思っています。

何よりも必要なのは

 何よりも必要なのは早く始めることです。結局取り組んだ時間の長さに勝るものはありません。

 「当たり前に子どもは私立」というようなご家庭ではない普通の家庭の場合、長い準備期間が必要なのは子どもよりも親の方です。元々が違う分、私立の親らしくなるための時間が必要です。

 長い時間を掛ければ、周りのご家庭を見て身の程もわきまえられます。庶民の家庭ほど言いがちな「〇〇以下なら行く価値がない」などとは言わなくなります。

 親の意識が変われば、家庭での取り組みも意識的になります。より濃密に準備ができるようになります。

 親の準備期間が必要なのは小学校受験でも中学受験でも同じです。

 妻のお客様は皆さん立派な方ですが、基本的にはそういう立派なご家庭の方たちが髪を振り乱して頑張っています。

 結局中学受験のお母様方の話を聞くと、やっていることは小学校受験と変わりません。子どもと一緒に様々な体験をしたり、読み聞かせをしたりすることは中学受験でも求められることです。

 学校の教育方針と家庭の教育方針の一致する点を探して、関連する本を読み、入試の傾向が似ている学校を併願校として選びます。小学校受験で必要な準備と中学校受験で必要な準備に差はありません。親の面接がある中学校もあります。

 だから抱えるストレスも同じです。僕は受験の時かなり太りました。直後の写真を見るとスーツがパツパツで悲しくなります。僕のお客様でお嬢さんの小学校受験をされた方と久しぶりにお会いした時、印象よりも痩せていらしたので

「痩せましたか?」

と聞いたら、やはり受験のストレスで太ったと仰っていて、受験前後の写真がパンパンだったという話で盛り上がりました。

 妻の中学受験の生徒のお母様も受験の直前には太ってしまう方が多いそうです。

 人前ではにこやかにしていても、子どもの勉強を見ていると駄目と分かっていたって鬼のように怒ってしまいます。

 夫婦での会話は子どもの出来やテストの結果しかなくなります。仕事を制限すると人前に出る機会も減ります。

 ストレスが溜まれば変な時間にお腹が減るし、運動する時間も取れません。小学校受験でも中学受験でも同じです。

 ただ小学校受験の方がお教室や幼稚園の送り迎えなど、まだ綺麗な服で人前に出る機会が多いです。ある程度は保てるでしょうし、終わってしまえば戻す余裕も持てます。

 リッチなご家庭のお母様は、受験が終わったらエステにジムにと時間もお金も掛けられます。入学式に合わせてきっちり仕上げてくる方がたくさんいらっしゃいます。

 中学受験はその猶予が2ヶ月しかありません。小学校受験は半年近くあります。そうは言っても中学受験の妻のお客様方は、その2ヶ月できっちり仕上げていらっしゃるそうですが。

いずれにしても

 いずれにしても、学校に入ったらそういう綺麗なお母様たちと並ばなければなりません。だから芸能人もたくさんいるような「行く価値のある」学校に庶民の家庭が通っても楽しくないように思います。

 妻は高校受験でカトリックの女子校に進学しました。

 妻のお母さんは妻の高校には保護者会や行事で行っていたそうです。妻の妹はやはり高校受験で小学校受験でも人気の大学附属に進学しました。お母さんは入学式に行ったきりその後一度も行かなかったそうです。

 保護者会や面談にはお父さんが行き、卒業式には姉である妻が出席しました。妻の記憶だと体育祭や文化祭などの行事には家族の誰も出席しなかったそうです。

 妻のお母さんは地方出身です。妻の高校は今では中学受験でも人気の学校ですが、当時は高校からの募集しかありませんでした。実際には裕福な家庭の子が多かったようですが、東京の学校ではなかったためお母さんは楽しく行っていたようです。

 ですが妹の学校は都心にあります。下から上がって来る子たちもその親同士も、既に関係が出来上がっています。

 高校からの入学者は「外部の人」です。内部進学組は華やかな人が多いでしょうから肩身が狭かったのかもしれません。

 周りのお母さんが着ているような服も、ブランドのバッグも持っていないと泣いていたと言います。 

 妹自身も入りたかった部活には何となく入れず、取り敢えず入った部活の合宿費用は高額で家の中が荒れたと言っていました。合宿には小学校から通っていた大学生の先輩たちも大勢来て自分は肩身が狭く、結局その部活も半年で辞めてしまったそうです。

 高校の同級生たちはそもそもが親のコネで就職先が既に決まっていたり、嫁ぎ先が決まっていたりするような子が多く、コネも何もない自分は公務員になろうと決めて、教育学部に進んで今は区立小学校の教員をしています。

 誰もが「行く価値がある」と思う学校は、大体が華やかで難関です。

 妻はお母さんが当時見栄を貼って頑張って保護者会に着て行った服とグッチのバッグをよく覚えているそうです。でも妹の行った学校はそのグッチでは惨めに思えたのです。

 妻もお母さんと妹のリベンジを娘たちの小学校受験でしたかったのかもしれません。

2月1日の受験に向けて

 2月1日の受験に向けてどの学校を受験校として選ぶのか、併願校をどうするのか、既にみなさん考えています。午前に〇〇を受けて、午後は〇〇を受けたいのだけど移動時間的に可能なのかとシミュレーションが始まっています。

 電車で移動するのか、タクシーを一日チャーターしておくのか、お父さんも休みを取って車で待機しているのか……。11月1日の小学校受験と同じです。

 本命の入試を心穏やかに迎えられるかどうかは、中学なら1月、小学校なら10月の学校の結果次第です。「どうせ行かないから」と前哨戦の学校を受けないで上手く行く例は少ないそうです。

 選んで貰う立場の受験生の家庭側が、学校に対して「価値がある」だの「価値がない」だのと言うのは間違いです。

 因果応報ですから「行く価値がない」と思っている学校からは「来てもらう価値のない家庭」と思われるかもしれません。

 どの学校に対しても「ぜひ入れていただきたい」という気持ちで臨むことです。

 少なくとも普通のご家庭に限って言えば「行く価値のある〇〇」だけを受験して、ご縁を頂いたという話は聞いたことがありません。

 いつまでも価値のある学校を追い求めてしまうと、自分も年をとるし子どもも制御できなくなってしまいます。

 僕のブログのテーマは「身の丈に合った着地点」を見つけることです。庶民の我が家が私立小学校に行くことは、一般的に見たら身の丈に合っていないと思われるかもしれません。

 でも僕達は、そうでもしないと娘が大学に行けないことをよく分かっています。だから今頑張って背伸びをしています。

 受験のストレスで太ることも、仕事を制限することも、子どもに我慢させてガリ勉させることも、一度は通らなければならない道です。

 小学校受験でも中学受験でも、終わった後は自分の子どもの位置と家庭の位置をまざまざと見せつけられます。リベンジと再び奮起するにも、自分たちなりの幸福を見い出すにしても早いほうが良いと考えています。

こちらも読んでみてください

『中学受験回避を考えた理由』