受験のストレスについて

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微笑む少女

 我が家は年長時、総合べんきょうは受講していませんでした。第一志望校がペーパー校なので、志望校別クラスの授業でペーパーは対応できると考えていたためです。年中の終わりに出席した志望校別クラスがある校舎の保護者会では

「総合べんきょうは必ず受講して下さい」

と言われていましたが受講する予算がありませんでした。

新年長が始まって

 新年長が始まって、11月と12月は特に問題なく通いました。我が家が年長時にジャックで受講していた講座は、年長受験体操・聞き取り話し方・志望校別の3つで、志望校別クラスの授業は1月からのスタートでした。

 体操は志望校別クラスに合わせて年中まで通ったホームの校舎ではなく、都心の校舎の講座を取りましたが、年少・年中と同じ先生の授業でしたので気楽に通えました。

 娘たちは体操が得意だったので、都心の校舎の授業でも特に見劣りすることはありませんでした。

 年中までの間は子どもにストレスをかけずに、家族で楽しく受験に取り組む方針でした。都心の子たちの中で負けずに頑張っている娘たちの姿を観て、自分たちの取り組み方は間違っていなかったと思いました。

 聞き取り話し方はみんなの前に出て歌を歌ったり、昔話を暗唱したり、演劇をやっていた僕にとって本当に楽しい授業でした。

 我が家は年中でもべんきょうの講座を取っていなかったので、代わりに年中の夏期講習や冬期講習でペーパーのフォロー系の講座をたくさん取っていました。普段べんきょうの授業を受けていない割に、娘たちはしっかり授業についていっていたので、ペーパーが弱点だとも思っていませんでした。

 12月までの間はむしろ良い気分でジャックに通っていました。

1月になって

 1月になって学校別の授業が始まって状況が一変しました。総合べんきょうを受講していない娘たちは、他の子が出来ていて当たり前のことができません。他の子にとっては復習になる内容のことも、娘たちにとっては初めて聞くことです。完全に授業についていけませんでした。総合べんきょうの受講は絶対だと言われていた理由がよく分かりました。

 講習会で受講していたペーパーのフォローの授業は、ペーパーが苦手な子たちのための講座です。基本的に内容が易しいのです。第一志望の学校はペーパー難関校に数えられています。難易度が全然違いました。

 本来なら我が家こそ、総合べんきょうをちゃんと受講しなければならなかったのです。でも予算ぎりぎりで臨んでいる我が家は、自分たちの良いように考えていました。 

 ペーパーを甘く見ていたツケが一気に押し寄せてきました。その時になってはじめて、校舎によっては「年中ペーパーアドバンス」という授業があることも知りました。

 それから僕も妻も授業に追いつくのに必死になりました。のんびり楽しくという取り組みから変わって、ペーパーをガンガンやらせるようになりました。親の失敗を取り返すために、娘たちにかなりのストレスをかけるようになったのです。

 娘たちのペーパーの出来が良くないのは僕と妻の失敗です。年中の時に甘く見ないでべんきょうの講座をちゃんと受講していれば、年長になってからも余裕をもって受験に取り組めたかもしれません。

 それまでジャックの授業で子どもを怒っている親を見て

「子どもができないのは親のせい。怒るなんて愚の骨頂」

と思っていたのに、毎日家でペーパーをやらせてはできないと怒るようになりました。

志望校を変えようか

 学校別の授業にすらついていけないのだからと、志望校を変えようか何度も考えました。4月から開講される他の学校の志望校別クラスに入れるか、実際いくつもの校舎に問い合わせの電話をしました。

 我が家は入塾順が早かったので、どこの校舎では受け入れてもらえるようでした。

 ですが電話口で必ず

「総合べんきょうはどこの校舎で誰先生の授業を受講されていますか?」

と聞かれました。

 総合べんきょうを受講していないことを伝えると、決まって「それは困った」という反応がかえってきました。

 受験のストレスの原因は主に不安なのだと思います。不安だから視野が狭くなります。妻からも、偏差値表の数字に翻弄される中学受験のお母さんの話をよく聞きます。

 小学校には明確な偏差値がありません。だから僕はジャックの合格人数と学校別クラスのコマ数を見比べたり、学校別クラスの開講時期を見たりして、どの学校が受かりやすいのだろうかと愚かなことを考えていました。

 4月に学校別が開講される学校は、受験生のレベルも低くて受かりやすいのではないかと思ったから、志望校を変えようかと思ったのです。

 冷静に考えればそんなはずはないのです。どの学校も、何年も掛けてその学校に入るための準備をしてきたご家庭がたくさん受験します。特に小学校受験は志望校への熱意が重視される傾向が高いように思われます。

 思いつきの付け焼き刃の対策では駄目に決まっています。

 結局、志望校クラスを替えて駄目だった場合、後悔のほうが大きくなると考えて、志望校を替えずに引き続き同じ志望校別クラスに通い続けることに決めました。

 志望校別の先生の授業やお話しは大変素晴らしく、僕も妻も先生を信じてついて行きたいと思っていました。

 怒らずに楽しく取り組もうとしていた我が家の小学校受験は終わって、当初考えていたのとは全く違う取り組み方になりました。

だれのため?

 むきになってペーパーをやらせるようになってから、子どもは過度なストレスを与えると脳が働きを止めて突然寝始めることを知りました。特にペーパーが苦手だった下の子はよく鉛筆を持ったまま寝ていました。

 朝から晩までペーパーをやり続けた翌日に、娘が二人とも吐きました。娘が吐いたことで我々夫婦は少しだけ冷静になりました。第一志望の学校はチャレンジ校と考えて、第二志望にしていた学校を実質の第一志望と考えるようにしました。

 僕と妻が何かしらの要因で周りが見えなくなっていると、いつも娘たちが気づかせてくれます。今でもそうです。

 小学校受験に取り組む中で、「これは誰のためにやっているのだろう?」と疑問に感じる瞬間が何度もありました。

 我が家の小学校受験は僕と妻が自分のためにやったことです。

 もちろん子どもに良い教育環境をと考えて受験に臨みました。でも娘が自分から私立小学校に行きたいと言った訳ではありません。僕と妻が娘を私立小学校に通わせたかったから受験をしたのです。

 妻の仕事での面子のため、私立に通わせている優越感を得るため。

 僕も自分の夢を諦めてつまらない仕事をしている現状を、小学校受験が変えてくれると思っていました。

 ピアノや水泳の習い事も僕と妻がやらせたいから習わせています。だから子どもに

「やる気がないなら辞めるよ」

とは絶対に言わないようにしています。

 習い事も小学校受験も子どものためにやっているというのは綺麗事です。子どもの意志を尊重するというのは聞こえは良いですが、子どものレールは親が敷くものです。子どもの歩む道を子どもに気づかれないように整えるのが親の役目です。

 僕は受験が終わったから「自分のためにやっていた」と言えます。もちろん当時は娘の将来のためだと思っていました。でも本当は自分のためだと分かっていました。心の底のほうにしまっていたのです。

 だから親のエゴで子どもにストレスをかけている状況に親がストレスを感じます。

 僕は娘が年長の時かなり太りました。娘の卒園式の写真を観るとスーツがパンパンです。

ストレス

 それでも、小学校受験でかかるストレスはその後のどの受験と比べても大したことないと思っています。中学受験も大学受験も家庭が抱えるストレスはかなり大きな物です。

 娘たちもストレスでチック症になったり壁に落書きをしたりしていましたが、妻から中学受験のストレスが原因による抜毛、カンニング、虚言などになる小学生の話をよく聞きます。

 小学校受験の場合、子どもにストレスをかけているのは親です。だから親が取り組み方のさじ加減を変えればある程度ストレスをコントロールできるでしょう。中学受験も大学受験も子どもにストレスをかけているのは親ではなく、塾などの外的要因です。過度なストレスで子どもが病んでしまったら、受験そのものをやめるのでしょうか

 我が家は新年長に上がった時に家を引っ越しました。引っ越しの際ぬいぐるみやおままごと用の玩具などほとんど処分しました。

 その反動か娘たちは小学校に入ってから、赤ちゃんが遊ぶような玩具やぬいぐるみを欲しがりました。

 精神的な問題を解決するためには、問題の起因となったことを満たしてあげなければ解決しないと言います。

 娘たちには本来5歳の年齢でやりたかった遊びを我慢させていたので、それを満たしたかったのかもしれません。

 受験が終わってから我が家はぬいぐるみで溢れかえっています。

 小学校受験だからぬいぐるみとおままごとで済んでいるのかもしれません。小学校の6年間を取り戻すのは途方もなく大変なように思います。中学受験がゴールになってしまって、反動で気力をなくしてしまう子も実際たくさんいます。

 子どもだけではなく親も同じように我慢していた時間を取り戻さなければなりません。僕はお酒は呑みませんが、お酒を我慢している親御さんは多いでしょうし、受験の間に我慢していることはどの親御さんもたくさんあるでしょう。

 子どもの年齢が上がるほど、親も年を取っています。抑圧されていた時間を取り戻す時間も体力もなくなっています。

 娘たちは今楽しく学校に通っています。たくさんストレスをかけて無理やりやらせてきたけど、楽しそうに通っている娘たちの笑顔を観るとあれで良かったのだと思えます。

 双子で同じように育てていたつもりでも、性格も違えば興味のあることも違います。上の子は俳句が好きで、勝手に松尾芭蕉の句を書き写して自分でアレンジして俳句を作っています。

 小学校受験の取り組みが、頑張る心や工夫する心を育ててくれたのだと思っています。

 僕も妻もプールに通って身体を鍛える余裕が持てるようになりました。

  

 受験が終われば、我慢や不安からくるストレスは解消されます。それくらい毎日が楽しいです。もし我が家が途中で諦めてしまっていたら、我慢や不安から開放されるのはまだまだ先のことになっていました。実際に年長の1月から4月頃までの間は、何度も諦めようと考えました。

 最後まで頑張ってくれた娘たちと、最後まで心の支えになってくれていたジャックの先生方に感謝の気持ちでいっぱいです。