普通の子育て

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 娘たちの学年が上がるにつれて、私立小学校に通わせて頂いているからこそ「普通の子育て」ができていると実感しています。

 普通の子育てとは、中学受験を考えなくても良い子育てです。

「普通の子育てとは」

 学校での宿題や課題に一生懸命取り組ませること、学校の先生方を敬い、友達を大事にすること、芸術的なことやスポーツに取り組ませて子どもの特技を作ること、家族で芝居を観たり音楽を聴きに行くことです。

 そういう我が家も実は第一志望校に行けなかった悔しさから、小学校の入学よりも前に四谷大塚に入会しました。

 小学校受験は終わってから実際入学するまでの期間が長いです。2月にもなると開放感も一段落します。入学の準備も一通り終わってしまいます。幼稚園のお母さんたちに密かに自慢することにも飽きてきます。

 受験前の忙しい日々から一転して暇になったからか、妻のリベンジ精神に火が点いたのでしょう。

「良い学校の制服を着た娘を連れて歩きたい」という思いで小学校受験を乗り越えた妻です。

 入会時のアンケートで志望校を書く欄に、妻は青山学院中等部と書いていました。勘違いして慶応中等部と書かない自分たちは、「なんて分別があるのだろう」と思っていました。

 1月に参加した四谷大塚の体験授業の日、娘たちは目を輝かせながら「楽しかった」と言って帰って来ました。まさに我々の期待通りでした。

 娘たちは小学校受験のために毎日ペーパーの勉強も積み重ねてきたのです。勉強は好きに決まっています。雙葉や白百合に合格した子たちには負けるけど、そういう子たちは1年生から中学受験の塾に通うことはないでしょう。

 だから今度こそ娘たちはトップに君臨できるに違いないと思い込んでいました。

 高偏差値を叩き出すに違いないと期待してはじめて受けた模試は、トップどころか偏差値50くらいでした。正直言ってがっかりしましたが、そういうときは「ここから伸びる、ここからスタート」と都合よく考えられるものです。

 さらに4月になると立派な学校の制服を着ている新一年生をたくさん見るため「今度こそは」と思います。

「ところが1年生の1学期は」

 ところが1年生の1学期なんて本当に大変でした。毎日の学校の宿題をこなすことや、遠い私立に通う暮らしに慣れることに精一杯でした。

 我が家は元々校則の厳しい女子校に通わせたいと思っていました。

ところが娘たちときたら「下校時のお喋りや歌がうるさい」と通報されるは、下校時に渋谷駅で隠れんぼをして迷子になって交番から私の携帯に電話がくるは、毎日のように電車の中に荷物は忘れてくるは、厳しい学校だったら即刻退学になっていたのではないかとヒヤヒヤしていました。

 一目でどこの学校か分かるような立派な制服が羨ましかったのに、あまり目立たない制服で良かったと思ったほどです。

 私も毎日捺さなければならない判子をよく忘れていました。私のせいでしてしまった忘れ物もたくさんありました。

 ご縁を頂いた学校は給食です。それでも慣れるまでシッチャカメッチャカでした。第一志望校はお弁当です。お弁当を作るのは私の役割です。よく通わせられると思っていたものです。

 四谷大塚の課題などを丁寧に取り組んでいたのは、2月に入会してから学校が始まるまでの2ヶ月間ほどでした。

 一学期も終わりに近づいて私立小学校の生活に慣れてくる頃には、娘たちは学校が楽しくなっています。私と妻も学校に満足していて、中学受験など考えなくなっていました。

 結局娘たちは塾でも学校でもトップなんかではありませんでした。当然私も妻も学校の中でイケてる保護者ではありません。

 中学受験をして「もっといい学校に行ってやろう」なんて驕れる立場ではありませんでした。

 保護者会、授業参観、面談、行事など学校へ足を運ぶたびに、学校への満足度が上がっていきました。中学受験をせずに小学生時代を満喫しようという気持ちに変わっていきました。元々我が家は中学受験を回避するために小学校受験に臨んだのですから。

「中学受験には学校行事が……」

 ところが中学受験をすると、学校行事などが邪魔に感じるようになると聞きます。

 我が家は中学受験を諦めて、今の学校に楽しみながら通うことを選んだので、四谷大塚の課題の方が邪魔になりました。だからさっさと辞めました。

 今振り返っても、四谷大塚を辞めたことは大正解でした。中学受験を続けていたら我が家の「普通の子育て」はありませんでした。

 ピアノ、バレエ、サッカー、野球…etc。それぞれのご家庭で大事にしてきた習い事、子ども自身が好きな習い事があるはずです。中学受験をするということは、塾以外のそういった習い事を高学年になったタイミングで辞めるということです。

「5年生になったら一旦お休みして。中学に入ったら部活でやれば良い」

 という台詞をよく聞きます。もし部活で再開したいなら、学校選びの幅は狭くなります。なぜなら小学校がない学校を選ばないと楽しく部活なんてできないからです。

 小学校から通っている内部進学組は、中学から入って来たご家庭から「遊んでいたから頭が悪い」と言われることくらい知っています。

 だから馬鹿にされないように勉強もしっかりやっています。スポーツや音楽、美術など何かしら特技を身に付けさせようとしています。

「中学からくる『外部の方』たちに負けてたまるか」と思っています。

 だから、内部進学組がいる学校で中学受験組が楽しく部活に参加できる可能性は低いです。私だって中学から入った子が、娘たちに100m走で勝てるわけがないと思っています。

 私は娘たちが陸上を習っていて走るのが速いことが自慢です。だから運動会のリレーは楽しみにしています。

 教育熱心な保護者が多いですから、みんな他の子には負けたくないものの一つや二つはあるはずです。音楽祭のピアノ伴奏や、文化祭で踊るダンスクラブなど良い例でしょう。

 娘たちもピアノを習っていますが、自分たちは伴奏をするような階級ではないことを知っています。

 学校の行事を観に行くのは楽しみですし、必ず感動します。娘たちもどの行事にも一生懸命取り組んでいます。ところが中学受験をすると行事に一生懸命取り組めなくなります。

 娘たちは運動会の前の1ヶ月ほど毎日走り込んでいて、私も付き合いました。音楽祭の前になると毎日鍵盤ハーモニカやリコーダーの練習をしました。

 私も妻も行事を大事に思っていますから「宿題だけやれば勉強は終わりで良いから、練習しなさい」と言います。

 学校行事はその準備に何日も掛かります。だから受験には行事が邪魔だと言われます。

 一生懸命練習している子どもに向かって「そんなのやらなくて良いから、SAPIXの課題をやりなさい。行事は適当に参加しなさい」と言わなければならなくなります。

 受験をするなら当たり前です。ですがそれは「普通の子育て」でしょうか?

「小学校受験では」

「走る練習も、リコーダーの練習も頑張って、運動会や音楽祭を成功させようね」と言うのが普通の子育てですし、小学校受験では子どもたちがそういう心を持つことを良しとしてきました。

 そういう教育を受けて育っているのですから、私立に通っている子はみんな全力で取り組みたいのです。

 だから私立小学校に通いながらの中学受験は大変だろうと想像できます。学校のことを「適当」に手を抜いてやり過ごすことを、学校も子どもも良しとしないからです。

 小学校受験の当時は、一生懸命練習せずに足を引っ張る子や、和を乱す子を「クラッシャー」と言って、我が子がそうならないように家庭での教育に取り組んでいたはずです。ところが中学受験をすると、今度は我が子が練習不足でクラスの足を引っ張ることを良しとしなければならなくなります。

 我が子が「クラッシャー」でも目をつぶらなければならなくなります。これまでの子育てと正反対です。

 我が子が運動会のクラスリレーでゴボウ抜きされてビリになろうとも、合奏のリコーダーを一人だけ間違えようとも、中学受験という大義名分の前では、親は気にしてはいけないのです。

 どの行事にも全力で取り組んで「来年は指揮者をやったら?」とか「来年はもっと練習して1位を取ろうね!」という方がまともな子育てだと思えます。

「今のうちしかできないこと」

 最近娘たちはAmazonで「スラムダンク」と「ドラゴンボール」を夢中になって観ています。私も懐かしく思いながら一緒に観ています。受験がないからできることです。

 小学校受験に取り組んでいた頃は、何をするにも「それが小学校受験の役にたつかどうか」を考えていました。もしあのまま中学受験を続けていたら、今でも同じように考えていたでしょう。スラダンもドラゴンボールも中学受験の役にはたちません。

 私も娘も歌うのが好きなので、よく「カラオケに連れて行け」とせがまれます。子どもと一緒にアニメを観るとか、カラオケに行くなんてことは、小学生の内にしかできません。中学生になったら友達と行ったほうが良いのです。

 小学生の子どもと遊ぶことも、習い事で他のご家庭に密かに張り合うことも、学校行事を満喫し、子どもの成長に感動することも、全部普通の子育てです。

 我が家は今のところ、その全部を手にすることができています。小学校受験をして今の学校に通わせていただいているからです。