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「カチカチ山」
親子で遊べる朗読劇の脚本です。ト書きは「語り手」の台詞として扱ってください。
登場人物
語り手
うさぎ
たぬき
おじいさん
おばあさん
場所
どこかの山奥
第一場 家
昔々あるところに。おじいさんとおばあさんが2人で暮らしていました。
2人には子どもがいません。暮らしはゆうふくではありませんでしたが、小さな畑で少しの野菜をそだてながら仲良く暮らしていました。
おじい「畑に行ってくるよ。今年も大根が大きく育ったよ」
おばあ「まっしろで甘い大根がたくさんとれて、かみさまにかんしゃしなければいけませんね」
おじい「わしら2人、楽しく暮らせるのもかみさまのおかげだ。かんしゃしないといけないね」
おばあ「かえって来たら、かわいいうさぎの坊やに、甘い大根をたくさん食べさせてあげたいですね」
おじい「そうだね。よろこぶよ、きっと」
おじいさんは畑へでかけていきました。
畑では山に古くから住まうたぬきが、歌いながら大きくそだった大根を次々と踏みつぶしています。
第二場 畑
たぬき「(歌)まっしろな大根を
踏めば真っ黒 どろの色
まっしろな雪を
踏めばまっくろ どろの色
白いものはやがて黒
黒いものはずっと黒」
と、おじいさんがやって来ました。たぬきを見つけると、くわを放り投げ慌ててかけ出しました。
おじい「こらあ!悪さばかりする大ダヌキめ。わしの畑で何をしとるか!」
たぬき「お、これはこれはおじいさん。かたい大根が突きささって土が痛いと言うので、悪い大根を踏みつぶしておきました。あ、お礼はいりませんよ。三本ほど頂いておきましたので。この大根は甘いですね。ではさよなら!」
たぬきは大根をボリボリとかじりながら逃げていきました。
おじいさんは踏み荒らされた畑に座り込み、途方に暮れてしまいました。
おじい「ああ、畑がぐちゃぐちゃ。大根もめちゃくちゃ」
第三場 家
家に帰ってきたおじいさんは、おばあさんにたぬきが畑を台無しにしたことを話しました。
おばあ「仕方ありませんよおじいさん。大根は駄目になっても、まだ蕪があるじゃありませんか。明日は白くて甘い蕪をたくさん持ってきてくださいな」
第四場 畑
たぬきが歌いながら、今度は蕪の畑を踏み荒らしています。
たぬき「(歌)まっしろな蕪を
踏めばまっくろ どろの色
真っ白な雲も
雨が降るときゃ まっくろけ
白いものはやがて黒
黒いものはずっと黒」
おじい「またお前!」
たぬき「あ、おじいさん。蕪も甘いですね。さよなら」
怒ったおじいさんは、たぬきを捕まえることにしました。そこである晩、とりもちを作って畑の切り株に塗っておきました。
知らずに座ったたぬきは、お尻が切り株にくっついて動けません。
かくれていたおじいさんは飛び出すと、たぬきをしばり上げ、棒に吊るし、家まで持って帰りました。
第五場 家
おばあさんが洗濯をしていると、おじいさんが棒にしばったたぬきを肩に担いで帰ってきました。
おじい「おばあさんや。悪さばかりする大ダヌキを捕まえたぞ。今夜は狸汁にでもするべ。鍋の用意をしといてけろ。わしは汁に入れるキャベツを分けてもらってくるから」
はりにたぬきを吊るすと、おじいさんはウキウキと出掛けていきました。
おばあさんは台所でたぬき汁を作る用意をしています。
たぬき「グスン、グスン、痛いよ、おばあさん、縄を外しておくれよ」
おばあ「いんや駄目だ。お前さんを逃したら、おじいさんにしかられる。かわいそうだけど、散々畑を荒らした罰だと思って、あきらめておくれ」
たぬき「おらが悪かったよ。もうしないから許しておくれ。おらは年を取りすぎてるから汁にしても肉がかたくてうまくないんだよ」
おばあさんは、別にたぬきなんて食べたいと思いませんでした。それに殺してしまうのも何だかかわいそうな気がしてきました。
おばあ「たしかに、汁にしてしまうのはちょっとかわいそうだね。もうしないと約束するかい?」
たぬき「約束するよ。もちろんだよ」
おばあ「そうかい。じゃあ、逃してやろうかね。ちょっと待ってなよ。今ほどいてやるからね」
おばあさんはそう言うと、はりにしばり付けられた縄をほどき始めました。
たぬき「ありがとうおばあさん。もうおじいさんの畑は荒らさない。約束するよ」
おばあ「本当かね?」
たぬき「本当さ。おばあさんは恩人だもの。絶対に約束する。最近山で食べ物が採れないから畑の物を盗ってしまったんだ」
おばあ「そうかい、でもそれなら何も畑の野菜を台無しにすることはないだろ」
たぬき「おら、ずっと一人で暮らしてるから、寂しかったんだ」
おばあ「そうかい。そんなら寂しくて腹が減った時はいつでもおいで」
たぬき「グスン。おばあさんごめんよ。ごめんよ。あれ?わあ!」
縄をといたものの、たぬきは尻尾がはりの間にはさまって宙吊りになってしまいました。
おばあ「あれあれ、尻尾がはりの間に挟まってるね。ちょっと待ってなさい。今はずしてあげるから」
おばあさんは台所から踏み台を持ってくると、たぬきの尻尾を外そうと力いっぱい引っ張りました。
たぬき「痛い痛い。尻尾がちぎれるよ」
おばあ「少し我慢なさい。汁にされるよりは良いだろう。あばれるんじゃないよ」
たぬき「あ、おばあさん危ないよ。そんなに引っ張ったらはりの上の石が落ちそうだよ」
おばあ「もう少しで取れそうなんだ。ほらじっとして」
たぬき「あ、落ちる!」
おばあさんがあまり引っ張るので、はりの上に置いていたつけもの石が動いておばあさんの頭に落ちました。
おばあさんはばったりとたおれて、動かなくなりました。
おばあさんがたおれたひょうしに、挟まっていた尻尾がはりから外れたたぬきは、おそるおそる近づいておばあさんをゆすってみましたが、おばあさんはもう動きませんでした。
たぬき「おばあさん、おばあさん!」
と、ちょうどそこにおじいさんが帰ってきました。
おじい「今帰ったよ。おばあさんや、湯はわいてるかい?」
たぬき「おじいさんが帰ってきた。おばあさん、ごめん。おいら、逃げるよ」
たぬきがうら口から逃げ出すと、大きなキャベツを抱えておじいさんが入ってきました。
おじい「おばあさん!おばあさん!どうしたんだい?何があったんだい?ああ、何でこんなことに。おばあさん!おばあさん!」
と、そこに2人がかわいがっているうさぎの坊やがやってきました。
うさぎ「おじいさん、どうしたの?おばあさん!何があったの?」
おじい「たぬきのやつだ。あいつがおばあさんをだまして、こんなひどいことを。ああ、わしが出掛けなきゃ良かった。わしがいればこんな。わしが」
うさぎ「何があったの?おじいさん話してみて」
おじいさんはうさぎに、たぬきが畑を荒らしたこと、悪いたぬきを捕まえたこと、そしておばあさんをたぬきが殴って逃げたにちがいないことを話しました。
うさぎ「許せない。おじいさん悲しまないで。僕がきっとかたきを取ってみせる」
第六場 カチカチ山
次の日、うさぎはたくさんの枝を切ってたきぎを作りました。
そこにたぬきがやって来ました。
たぬき「うさぎ君、何をしているだ?」
うさぎ「今年の冬はうんと寒くなるそうだから、今のうちにたくさんたきぎを集めておくだ」
たぬき「そうか。おら寒いのは苦手なんだ。おらもたきぎを集めなきゃ」
うさぎ「たくさん集めすぎたから、もし良かったら半分あげるだ」
たぬき「ほんとうかい?」
うさぎ「ああ、代わりに運ぶのを手伝ってけろ。おらには重くて」
たぬき「そんなの簡単だ。全部おらが運んでやるだ」
と言うと、たぬきは縛ってあるたきぎをそっくりしょってしまいました。
うさぎ「わあ、たぬき君力持ちだなあ」
たぬき「なんの。お前は小さいからな。こんな重いものを運ぶのは大変だ。おら、力はあるから。よく一人でこんなに集めたな」
たぬきは山のようなたきぎをしょって、汗をだらだらかきながら、山をのぼってゆきました。
たぬきの後ろで、うさぎが火打ち石を打ちました。
カチカチカチ。
たぬき「うさぎ君、このカチカチ言う音は何の音だい?」
うさぎ「ああ、このあたりはカチカチ山だで、きっとカチカチ鳥が鳴いてるだ」
たぬき「そうかい。変わった鳥がいるんだな」
しばらくすると、たぬきのしょったたきぎに火がついて、パチパチと燃えはじめました。
たぬき「うさぎ君、このパチパチ言う音は何の音だい?」
うさぎ「ああ、このあたりはパチパチ山だで、パチパチ鳥が鳴いてるだ」
たぬき「そうかい。変わった鳥がいるんだな」
たぬきのしょったたきぎの火はメラメラと燃え上がり、ボウボウとうなり始めました。
たぬき「うさぎ君、このボウボウ言う音は何の音だい?」
うさぎ「ああ、このあたりはボウボウ山だで、ボウボウ鳥が鳴いてるだ」
たぬき「そうかい。変わった鳥が…。あち、あちち、ぎゃあ背中が火事だ!」
たぬきのしょったたきぎの火は今や大きな炎となって、ついにたぬきの背中を焼きました。
おどろいたたぬきはわき目もふらず、燃えさかる炎を背中に山をかけ上がり、池に飛び込みました。
第七場 唐辛子味噌
次の日、うさぎは唐辛子を山ほどすりつぶしてみそと混ぜ、真っ赤な唐辛子みそをおけいっぱいに作りました。
そこにたぬきがやって来ました。たぬきの背中はひどい火傷で、顔も真っ青になっていました。
たぬき「やいうさぎ、昨日たきぎが燃えているのをなぜ教えてくれなかっただ?」
うさぎ「たきぎ?何のことだ?」
たぬき「とぼけるな!昨日たきぎを山ほど集めて、おらが運んでやったでないか!」
うさぎ「ああ、それはおらのイトコだよ。そう言えば昨日はたきぎ集めをするって言ってただ」
たぬき「イトコ?じゃあ、あれはお前じゃないのか。それなら言ってもしかたないな。ところで、うさぎ君は何を作ってるだ?」
うさぎ「おら、薬を売ってるだ。これはうさぎ一族に代々伝わる秘伝のばんのう薬だ。これを塗るとどんな傷でも立ちどころに治ってしまうだ」
たぬき「おら、昨日の火傷が痛くて、昨夜は寝られもせんかった。その薬は火傷にも効くだか?」
うさぎ「もちろんだ。背中の火傷に塗ってやるだ。そら後ろを向くだ」
たぬき「いいのかい?ありがとう。助かるよ」
うさぎは、真っ赤な唐辛子みそをたっぷりとたぬきの背中にぬりつけました。
たぬき「うさぎ君、何だこの薬、ひりひりするぞ」
うさぎ「いい薬は苦いって言うべさ」
たぬき「あ、あ、あ、も、もう我慢できん。背中が燃えるようだ。ああ、ああ」
たぬきは一もくさんに駆け出すと、池に飛び込みました。
第八場 湖
次の日、うさぎは木をけずって小舟を作りました。
そこへ、たぬきがやって来ました。たぬきの目は怒りに燃え、鼻からフンフンと息を出しています。
たぬき「や、やい!うさぎ!お前!昨日の薬はなんだ!おらに一体何を塗っただ!」
うさぎ「薬?ああ、薬屋はおらのハトコだで、おら何も知らんよ」
たぬき「ハトコ?じゃあちがうのか。どうもうさぎは似てるから、みんな同じに見えるんだよ」
うさぎ「そうだね。みんな色が白くて、耳が長いからね」
たぬき「ところで、うさぎ君は何を作ってるだ?」
うさぎ「おらはりょうしだで、りょうに使う舟を作ってるだ」
たぬき「はあん。舟か」
うさぎ「そうだたぬき君、今日はみんなからたくさん魚を頼まれて、とても一人じゃ間に合わないだ。舟はもう一つあるだから手伝ってもらえんか?」
たぬき「かまわんよ。手伝うだ」
うさぎ「ありがとう!お礼に魚をたくさんあげるだ」
たぬき「おら、礼なんていらんよ。おらにくれる代わりに、おじいさんの所に分けてやっておくれ。おら悪いことばかりしてしまったから、あやまりたいんだ」
うさぎ「何を白々しい」
たぬき「ん?なんて言っただ?」
うさぎ「ううん、何も言ってない。よし分かった、届けるだ。じゃあたぬき君、この石の棒のひもを腰に結んでおくれ。魚がとれたらこの棒で魚を叩いてけろ」
たぬき「分かった」
たぬきはうさぎから渡された石の棒が外れないようにひもをしっかりと腰に結びました。そして、うさぎが貸してくれた黒い色の舟に乗って、2人並んで湖に出ていきました。
ところが、たぬきの乗った舟は泥の舟で、湖の真ん中まで来ると、水を吸って、みるみるくずれていきました。
たぬき「わ!わ!うさぎ君助けてくれ、ふ、舟が沈む」
たぬきは泳ごうともがきましたが、腰に結んだ石の棒のせいで、どんどん沈んでいきました。
たぬき「くそ、泳げない。何で沈むんだ?うさぎ君助けて」
うさぎ「へ、おらの母ちゃんはな、おらがまだ小さい時にワナに掛かって毛皮になった。一人になったおらを、おじいさんとおばあさんが育ててくれたんだ。そのおばあさんに、お前は何をしただ!だからお前は許せない」
それを聞いたたぬきは、もがくのをやめました。
たぬき「そうか、おばあさんのかたきうちだったのか」
そして、静かに湖の底に沈んでいきました。そして、もう浮かんで来ませんでした。
うさぎ「おじいさん、かたきはうちました」
あとにはただ波一つないきれいな湖面があるだけでした。
脚色・貧乏お父さん
「カチカチ山」脚本・PDF
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メモ
今回、たぬきを悪者ではないように書きました。
たぬきは寂しさを紛らわすために悪戯をして、おばあさんが死んでしまったのは事故です。
そうしてみたら、たぬきの気持ちに深みが出てきました。
たぬきはおばあさんを死なせてしまったことを悲しんでいます。だから、うさぎのことを手伝おうとするし、おじいさんに償いたいと思っています。
少し設定を変えたら、切ないお話になりました。
ちなみに、「カチカチ山」の原典は室町時代には成立していたようです。原典に出てくるたぬきは極悪非道で、おばあさんを殺した後おばあさんに化けて「婆汁」を作り。それをおじいさんに食べさせます。
役の振り分けは自由ですが、最初の内は子どもが1つの役を読み、親御さんがその他全部を担当するのが良いと思います。割り振り方を変えれば何パターンもできます。もちろん3人以上で読んでも楽しいと思います。
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