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登場人物
語り
さる
かに
子がにたち
うす
はち
くり
うまのふん
子ざる
第一場
かにがおにぎりをひろいました。
かに「こんなに大きなおにぎり。子どもたちがよろこぶわ」
さるはカキのたねをひろいました。
さる「ああ、これがカキの実ならよかったのに。たねじゃたべられないもんな」
大きなおにぎりを持ったかにと、カキのたねを持ったさるが、道でばったり会いました。
さる「やあ、かにさん、このカキのたねと、きみの持っているおにぎりを交換しないかい?」
かに「いやよ。カキのたねなんてたべられないもの」
さる「そんなことはないさ。おにぎりはたべてしまったらおしまいさ。でも、このカキのたねを土にうえてごらん。そうすると芽が出るだろ。やがて木になるだろう。しばらくしたら甘いカキの実がどっさりなって、いくらでもたべられるよ」
かに「それはそうね。うちには子ガニがたくさんいるから、おにぎり1つじゃケンカになってしまうわね。いいわよ。とりかえましょう」
さる「いいのかい?」
かに「もちろんよ」
さる「ありがとう」
かに「とんでもない。こちらこそありがとう」
第二場
さるはかにととりかえっこしたおにぎりを持って山をのぼっていきました。
するといっけんの小さな家がありました。
さるが中に入ると、おくからさるの子がでてきました。
さる「おにぎりをみつけたぞ。お父ちゃんのるす中に変な人は来なかったか?」
子ざる「うん来なかった。おいら、ちゃんと一人でるすばんできたよ」
さる「おう、えらかったな。さ、おにぎりだ。おあがり。」
子ざる「わあい、ありがとう。いただきます!」
さる「おう、うまいか?」
子ざる「うん、美味しい。ねえお父ちゃん。」
さる「ん?」
子ざる「おいら、母ちゃんいないの、もうさびしくないよ。母ちゃんが、にんげんのてっぽうにうたれたときは、とてもかなしかったけど、お父ちゃんがやさしいから」
さるの目にひとすじ涙がながれました。
子ざる「なんだ、お父ちゃん泣いてんのか?」
さる「泣いてなんかいねえ。外が寒いからだよ。そうだ、こんどは何が食いたい?」
子ざる「そうだなあ。秋になったし、甘いカキが食べたいな」
さる「カキか…。よしきた、お父ちゃんな、こんどは甘いカキをやまほど持ってきてやるぞ」
子ざる「ほんと?」
さる「ああ、楽しみにしてろよ」
第三場
そのころかには、とりかえたカキのたねを持って、家にかえってきました。
かに「さあ、子どもたちいらっしゃい!」
子ガニ「おかあさん、今日はなにを持ってきてくれたの?」
かに「今日は、このカキのたねを持ってきたわよ」
子ガニ「なんだ、たねなんてたべられないじゃないか!」
かに「そんなことないわよ。このたねを土にうえてごらんなさい。すると芽がでるわ。やがて木になるでしょう。しばらくしたら甘いカキの実がどっさりなって、いくらでもたべられるわよ」
子ガニ「やった!カキがたべほうだいだぞ!」
かに「さあ、さっそくたねをうえましょう」
かにの親子はおおよろこびで、カキのたねを土にうえました。
子ガニ「(歌)はやく芽をだせカキのたね ださぬとはさみでほじくるぞ」
かきのたねは、ほじくられてはたまらないと思い、あわてて芽をだしました。
子ガニ「(歌)はやく木になれカキの芽よ ならぬとはさみでちょんぎるぞ」
カキの芽はきられてはたまらないと思い、あわてて木になりました。
子ガニ「(歌)はやく実をなせカキの木よ なさぬともとからひきぬくぞ」
カキの木はひきぬかれてはたまらないと思い、あわてて実をどっさりつけました。
こうして、カキのたねはあっという間に大きな木となって、甘そうなカキの実をたくさん実らせました。
ところがこまったことに、かには木にのぼれません。せっかく甘そうなカキが目の前にあるのに、見ていることしかできませんでした。
するとそこにさるがやってきました。
かに「あら、さるさんいいところにきた。わたしたちは木にのぼれないの。よろしければカキをとってきてくださらない?」
さる「よしきたまかせろ!」
さるはそう言うとスルスルと木にのぼっていきました。
さるは甘そうなカキを次々ともいで、袋にしまいました。
子ガニ「わあい、さるさんがカキをたくさんもいでくれたよ!」
かに「さるさんありがとう!」
さるは木からおりてくると、子ガニの数を数えて言いました。
さる「5ひきだな」
そして、ふくろから6つだけカキを取り出してかににわたしました。
そして、カキの実がどっさり入ったふくろを持ったまま走りさりました。
かにたちの足ではとてもさるには追いつけませんでした。
第四場
次の日、かにの親子が庭に出てみると、もうさるが木にのぼってカキをもいでいました。
かに「さるさん、今日はわたしたちにも、もっとたくさん取ってくださいな」
子ガニ「そうだよ!その木はぼくたちがそだてたんだぞ!ドロボウ!カキドロボウ!」
さる「わかったよ、ほらなげるぞ!しっかりとれよ!」
さるはまだじゅくしていない青いカキを地面にほうりました。
さるはかるく落したつもりでも、小さなかににとっては大きなかたいカキが、空から落ちてきたのですからたまりません。
さるが落としたカキの実は、子ガニたちめがけて落ちてきます。かにのお母さんはむちゅうで走りました。そしてかんいっぱつ、子ガニたちの前に立って、カキの実を受け止めました。ところがかにのお母さんは、そのままアワをふいてたおれてしまいました。
さる「しまった!」
かにのお母さんは動きません。子ガニたちはお母さんにかけよると、ワンワン泣き出しました。
さる「わ、わざと当てたんじゃないからな。ほら、カキの実はここに置くぞ。じゃあな」
さるはそう言うと、カキの実が入ったふくろを置いて逃げていきました。
子ガニ「お母さん!お母さん!」
かに「いたたた、大丈夫だよ。泣かないで」
子ガニ「でも、お母さんうでが……」
重いカキの実を受け止めたせいで、お母さんの右手のはさみが、もげてしまったのです。
かにのお母さんは、その怪我がもとで、その晩から熱を出してねこんでしまいました。
第五場
お母さんがねこんだと聞いて、となりに住むウスのおじさんが、つきたてのおもちを持って、おみまいに来ました。ウスは子ガニからさるの話をきくと、かおをまっ赤にしておこりだしました。
ウス「なんてわるいさるだ!とてもだまってるわけにはいかねえ!かたきをうちにいくだ!」
ウスと子ガニたちは、さるをこらしめる作戦をかんがえました。
ウス「わしは力はあるだども、はやく動くことはできん。とてもさるをつかまえることはできねえだ。だれか動きのはやいやつに、かせいしてもらわんと」
子ガニ「ハチさんにたのもう。ハチさんは飛ぶのがはやいし、するどいハリを持っているもの」
ウス「よし、ハチさ頼んでみるべ」
次の日、子ガニたちとウスは連れだって、ハチの家に行きました。
ハチは友だちのクリと、えんがわでしょうぎをしていました。
話を聞くと、二人ともかおを青くしておこりました。
ハチ「なんてわるいさるだ!ゆるせない。よし、あたいもてつだおう」
クリ「おいらもてつだうよ」
子ガニたちとウスとハチとクリは、さるをこらしめるためのそうだんをはじめました。話し合いは一晩中つづきました。
ウス「うん、その作戦でいくべ。だども、最後にさるの足を止めるやくが、もう一人ほしいだな」
すると、馬がとおりかかりました。ウスがふと外を見ると、大きな馬のふんが落ちていました。
ウスはちょうどいいのがいたと言って、外に出ていきました。
ウスは、馬のふんに助太刀を頼んだのでした。
ふん「ええ、いいわよ。てつだうわ」
こうして、子ガニたちとウスとハチとクリと馬のふんは、ハチマキをまいてタスキをかけて、さるの家まででかけました。
とちゅうで、ハチが仲間のハチをおおぜい連れてきました。
ちょうど良いことに、一同がさるの家についたとき、さるはるすでした。
ウス「ではおのおのがた、もちばについてけろ」
第六場
ウスの号令で、クリはいろりの火の中に、子ガニたちは水おけの中に、ハチたちは柱のかげに、馬のふんは土間に、ウスは入り口のはりの上に、それぞれかくれました。
そこにさるが帰ってきました。
さる「ああ、さむいさむい。お尻が冷えて赤くなっちゃった。はやく火であたためよう」
さるはおしりをあたためようと、いろりの火におしりをちかづけました。
すると、火の中でチンチンに熱くなったクリが、さるのおしりめがけてとびかかりました。
さる「あちちち!しりに火がついた。水、水」
さるが水おけにおしりをつけると、こんどは中にいた子ガニたちが、いっせいにおしりをはさみで切り刻みました。
さる「ぎゃあ、いてえ!」
さるがとびあがると、柱のかげから出てきたハチが、さるのはなのあたまをチクリとさしました。
ハチがあいずをすると、仲間のハチが飛びかかり、さるのからだを次々とさしました。
さるのかおもからだも、ぱんぱんにはれあがりました。
さるはひっしで逃げ出そうとしましたが、入り口にいた馬のふんを踏んづけて、すってーんと転んでしまいました。
さる「おまえたちはだれだ?名を名乗れ!」
子ガニ「おいらたちはかにの子だ!お母さんのかたきをうちにきた!」
さる「かにの?お前たちの母ちゃんは死んだのか?」
子ガニ「お母さんが死ぬもんか!でも、うでがもげたんだぞ!ねこんでるんだぞ!」
さる「そうか。生きてるのか…良かった」
そこに、はりにかくれていたウスがさるの上にとびおりました。
さる「ぎゃあ!」
さるはさけぶと、つぶれて動かなくなりました。
一同「やったー!さるを討ち取った!」
みんなが勝ちどきを上げながらかえっていくと、おくの部屋から子ざるがでてきました。
子ざる「お父ちゃん!お父ちゃん!」
さる「…なんだ、おまえ泣いてるのか?ちゃんとるすばんしてたか?」
子ざる「うん。るすばんしてた」
さる「へんな人がきても、でなかったな?」
子ざる「うん。でなかった」
さる「そうか。えらかったな…」
子ざる「お父ちゃん!お父ちゃん!」
それから、つらい冬が過ぎて、春になる頃には、かにのお母さんはすっかり良くなりました。
手がかたほうになっても、子ガニたちが大きくなっててだすけしてくれるので、なんとか幸せにくらしています。
さるの親子はどうなったのか、それはだれも知りません。
脚色・貧乏お父さん
『さるかに合戦』脚本・PDF
メモ
今回の「さるかに合戦」は、さるに「シングルファーザー」という要素を付け足して、子猿というキャラクターを追加しました。
悪役がなぜ悪役になってしまうのかという理由を付けると、話に深みが出ると思っています。人が何か行動するときは必ず動機があるのですが、昔話のようにシンプルな筋書きだと、その動機の部分は描かれないことが多いので、そこを創作することで、話に新たな側面が見えるのが、昔話の面白いところだと思っています。
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